存在の耐えられないゆるさ。

躁うつはけんOLの脳内記録。

NICOLAIのフィグティー

 

香水を買った。

 

いつか夢中になった彼に言われたからではないと、完全には言い切れない。

「香水とかつけて、それで色んな男と遊んで自信つけたら、一緒に歩いてるだけでゾクゾクするような良い女になる」って。

言われたときはかなり余計なお世話だと思ったし、今もそう思う。

でも女を抱くためだけに生きている男がこういうときにさらっと口にするのが「ハイヒール」ではなく「香水」なのはやっぱりそういうことなのだと思う。

 

匂いは感覚に強く、視覚よりもっと直接的に訴えかける。

 

 

(ところで、わざわざそんな風に言うということは、私は少なくともそういう種類の男から見て「いい線いってるのに残念……」ってことなんだろうな。

でも此方としては、そのちょっと惜しいところを愛しんでくれる心の広さと風流さを持ち合わせていてほしい。)

 

山田詠美もやたらと香水は「男の脳裏に私を焼き付ける呪いで、良い女(=エロい女)の必需品」みたいなことを書いている。(あくまで私の解釈)

 

実際彼の甘い香水の匂いは脳裏に焼きついていて、同じ匂いの人とエレベーターで一度だけ一緒になったとき、その呪いが発動された。

いつか街ですれ違ったら、匂いで気がつくかもしれない。

 

昔好きだった人と同じ銘柄の煙草も、誰かが吸っていたらすぐわかる。

(そして煙草の煙を顔に吹き付けてくるような男は二度と好きにならないぞ、と思う……)

 

私は誰かを呪いたいわけではないけれど、同じ匂いに出会ったときにふと、いつか誰かが私を思い出して、愛しいような切ないような、優しい気持ちでいっぱいになってくれたら素敵だな、と思う。

 

 

 

 

その時がきたら、せめて記憶のなかの私をぎゅっと、抱きしめて欲しいのです。

 

 

 

おわり